東京高等裁判所 昭和37年(ネ)690号 判決
仮に区長の口頭の命令が存在したとしても、区長の右命令は当時施行されていた改正前の地方自治法第二三二条第二項に定める支出命令であるから、右命令は書面によらなければならないことは、会計事務、殊に支出行為の重要性に鑑み、また東京都渋谷区会計事務規則(甲第一号証)第二二条に照しても明らかであり、従つて口頭による支出命令は違法な命令であるといわなければならず、そのような違法な命令が無効であることは当時施行されていた改正前の地方自治法第二条第六、七項の定めるところにより明白である。而して公務員が上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないことは地方公務員法第三二条の定めるところであるが、同時に、上司の命令が違法な命令であることが法令に照し一見明白であるような場合には、これに従う義務はないと解すべきこと地方公務員法の右規定の解釈上相当であるといわなければならない。のみならず被控訴人が当時地方自治法第一六八条第二項に定める収入役でなかつたことは当事者間に争がないところであり、収入役代理に任命されていたことは控訴人の明らかに争わないところであるが、収人役代理がその資格において職務を行うことができるのは、収入役に事故があるとき、または収入役が欠けたときに限るものであることは当時施行されていた改正前の地方自治法第一七〇条第四項に定めるところであり、右の事故とは長期に亘り事務を執ることができない場合をいうものと解すべきところ、被控訴人が雑部金から金二〇万円を支出した日であること当事者間に争がない昭和二六年七月二日当時も、また、被控訴人が区長の命令が発せられた日であると主張する同年六月一一日においても、収入役に右のような長期に亘る差支えもなく、収入役が欠けてもいなかつたことは成立に争がない甲第九号証の一、二、および原審証人堀内学の証言により認められるから、右何れの日においても、被控訴人は収入役の職務を行う権限を有しなかつたものというべく、そして収入役でない者が支払通知書を作成、交付することができないことは当時施行されていた改正前の地方自治法第一七〇条第一項および前記会計事務規則第二二条により明らかであるから、被控訴人は右の当時支払通知書を作成、交付する権限を有しなかつたものといわなければならない。とすればかかる被控訴人に対し区長が支払通知書を作成、交付すべきことを命令したとしても、右命令は被控訴人の職務範囲外の事項に関するものであるから無効な命令というべきであり、しかもその無効であることは前記法令に照らし一見明白であるから、被控訴人は前同様の理により右命令に従う義務を有しないものといわなければならない。
(小沢 池田 宇野)